最終更新日: 2024年10月13日

■目次

  1. ウイスキー蒸留所をどこに開設するか
  2. ウイスキー作りに必要な免許を取得する
  3. ウイスキーの種類と製造計画
  4. ウイスキーの原材料選び
  5. ウイスキーに必要な設備
  6. ウイスキーの熟成に必要な樽

【この記事を書いた人】

アウグスビール株式会社
取締役COO 村井 庸介

店舗併設型クラフトビール工場の立ち上げ支援を行う。
1985年生まれ。慶應義塾大学を卒業して野村総合研究所に入社。
独立後、老舗クラフトビールのアウグスビールの坂本社長と出会い、クラフトビール造りにほれ込み株主となる。



現在、ジャパニーズウイスキーは世界中から注目を集めています。

インバウンドの影響もあり、クラフトウイスキーの蒸留所は年々増えていっています。

しかし、ウイスキー蒸留所の設立は多くの要素が絡み合い、どこから手をつけたらいいかわからないものです。

この記事では、ウイスキー蒸留所を設立したい、クラフトウイスキー作りに興味があるという方向けに、ウイスキー蒸留所の作り方を丁寧に解説していきます。

1. ウイスキー蒸留所をどこに開設するか

ウイスキー蒸留所を設立するにあたり、最初に取り組むのは開設地の選定です。

開設地の選定に大事なポイントを解説します。

水の質
ウイスキー製造には大量の水が必要です。 硬度30~100の不純物が少ない水が理想的です。 糖化や発酵、蒸留時の冷却に使用するため、水道水を使うとコストが高くなることから、井戸水などを利用できると好ましい環境と言えます。

空気の清浄度
ウイスキーの熟成には清潔な空気が重要です。 樽の中で呼吸するウイスキーにとって、清浄な空気は不可欠です。

交通の便
原料や製品の運搬、見学者のアクセスを考慮すると、交通の便が良い場所が理想的です。

上記をできるだけ満たした場所で、一般的なクラフトウイスキー蒸留所に必要な敷地面積は最低でも300平方メートルです。

貯蔵庫を設置するためにも、別途200〜300平方メートルほどの土地が必要になります。

また、蒸留所の設備は高さが必要です。

床から屋根までの高さは最低でも6メートル以上が望ましいとされています。


2. ウイスキー作りに必要な免許を取得する

日本で酒を製造するには、酒税法で定められた酒類製造免許が必要です。

この免許は、製造所が所在する所管税務署長から取得しなければなりません。

ウイスキー製造に必要な最低限の知識を持つことも求められます。

免許申請には、氏名や住所、製造する酒類、申請理由を記入した申請書のほか、製造場の敷地の状況を記した図、設備の配置図、一仕込み分の製造方法、すべての設備の状況、製造計画や収支の見込みを明記した事業概要、販売管理に関する取り組み計画書などの提出が必要です。

申請は国税庁のホームページからダウンロードできる用紙を使用し、提出できますが、申請書類の作成には時間がかかります。

できるだけ専門家に依頼することでスムーズに進めるのが理想的でしょう。

酒造りの経験がない場合、製造責任者が他の蒸留所で研修を受けることが必要です。

免許取得の期間は、申請後4ヶ月で審査が終わりますが、審査の内容や厳しさは所管の税務署によって異なるため、注意が必要です。

計画段階から免許の取得までは最短でも半年から1年は確保しておくと良いでしょう。




3. ウイスキーの種類と製造計画


ウイスキー蒸留所で、どのようなウイスキーを作るのかを決める必要があります。

ウイスキーにはモルトウイスキーとグレーンウイスキーがあります。

モルトウイスキーは大麦麦芽のみを使用し、グレーンウイスキーはトウモロコシや小麦なども使用します。

日本では、木製樽に詰めて3年以上熟成させることが義務付けられています。

また、生産量の計画も立てましょう。

酒類の製造免許ごとに法定製造数量が決まっていますが、ウイスキーの法定製造量は年間6キロリットルです。これが最低ラインということを理解して、生産計画を立てます。

1バッチで仕込む麦芽1トンから得られるウイスキーは200リットルのバレル樽約3樽分です。

年間の仕込み回数に応じて必要な原料や設備、樽の数を計算しましょう。

ウイスキーの熟成にはオーク樽が使用されます。

アメリカンオーク、ヨーロピアンオーク、フレンチオーク、日本産のミズナラなどがあります。

樽の調達コストは高騰しており、モルトウイスキーの熟成には「バーボン樽」がよく使われますが、1樽5万円以上することもあります。

樽や貯蔵場所の確保も計画に含める必要がありますね。

近年は、廃校や古い酒蔵をウイスキー蒸留所に改装する例が増えています。

既存の建物を活用することで、建築コストを抑えることも検討しましょう。


4. ウイスキーの原材料選び


ウイスキー蒸留所で使用される主要な原料は、大麦麦芽です。

大麦には二条大麦と六条大麦がありますが、ウイスキーやビール製造で主に使われるのは二条大麦です。 大麦をそのまま使用するのではなく、発芽させて乾燥させることで、でんぷんを糖化する酵素を活性化させる必要があります。
これを麦芽(モルト)と呼び、一般的なクラフトウイスキー蒸留所ではサプライヤーから仕入れます。

スコットランドのモルトウイスキーでは、4月〜5月に種を蒔き、8月〜9月に収穫する「春蒔き」の二条大麦が伝統的に使用されています。

大麦は品種改良が繰り返され、現在も新しい品種が登場しています。新たに蒸留所を立ち上げる際には、安定した仕込みを優先し、多くの蒸留所で使われているポピュラーな大麦麦芽を選ぶことが重要です。

よく使用されている大麦麦芽の品種には、「ロリエット」などがあります。

サプライヤーとしては、英国のクリスプモルト社やポールズモルト社、マントンズ、スコットランドのベアードモルト社などが有名です。

近年、日本のクラフトウイスキー蒸留所や大手メーカーでも国産大麦を使用する動きが増えています。

国内では北海道や栃木、岡山、佐賀、福岡などで大麦が栽培されていますが、ウイスキー蒸留所が十分な量を入手するのは容易ではありません。

自社で使用する国産大麦を栽培する蒸留所も増えていますが、価格が割高になることや、製麦されていない大麦を使用するための課題もあります。

また、麦芽だけでなく酵母も調達する必要があります。

酵母はアルコール生成や増殖性などに実績のあるものの中から、香味が良いものを選びましょう。

有名どころは、マウリ社やララモンド社の蒸留酒用酵母です。


5. ウイスキーに必要な設備

ウイスキーの製造には、多くの設備が必要です。

以下で解説します。

麦芽粉砕機(モルトミル)

麦芽を粉砕するための設備で、一般的にローラーミルが使用されます。
ローラーミルは複数のローラーの間隔を調整しながら麦芽を粉砕します。
適切な粉砕度合いが、アルコール収量や麦汁の品質に影響します。

糖化槽(マッシュタン)

糖化槽は、粉砕された麦芽と温水を混ぜて糖化を行うための設備です。
ステンレス製のものが多く、内部にシャワーのように湯を均一に加えるスパージング機能や、麦芽の搾りかすを排出する粕出機能を備えています。
糖化工程では、麦芽の糖化酵素を活性化させ、糖類を含む麦汁(ワート)を得ることが目的です。

発酵槽(ウォッシュバック)

発酵槽は、麦汁に酵母を加えて発酵を行うための設備です。ステンレス製と木製のものがありますが、ステンレス製の方がメンテナンスしやすく、温度調節機能がついていることが多いため、品質管理に優れています。
発酵槽の容量は、糖化工程で得られる麦汁量の1.5〜2倍が必要です。

蒸留器(ポットスチル)

蒸留器は、発酵後のモロミを加熱して蒸留液を得るための設備です。
モルトウイスキー製造では、初留釜と再留釜の2基のポットスチルを使用し、2回の蒸留を行います。
ポットスチルの材質には銅が使用され、形状や加熱方法によって得られるスピリッツの風味が異なります。
蒸留工程では、アルコール度数や香味成分の分離・回収が重要です。

上記の他、熱交換器(麦汁を冷却するための装置)、タンク(麦汁や仕込み水を貯めるための容器)、ボイラー(湯を沸かすための装置)、イオン交換機(水の処理を行う装置)、廃液処理装置(廃液を処理するための装置)等も必要になります。



6. ウイスキーの熟成に必要な樽


ウイスキーの熟成には一般的にオーク樽が使用されます。

オークの種類や樽の大きさ、樽の内側を焦がす内面処理の方法、樽の履歴などによって、ウイスキーの香味は大きく変わります。

ウイスキーの熟成には様々なサイズの樽が使用されます。

バレル(容量180〜200リットル)、ホグスヘッド(容量250リットル)、パンチョン(容量480〜500リットル)などです。

熟成環境はウイスキーの品質に大きな影響を与えます。 理想的な熟成環境としては、平均気温が10〜15度、湿度が適度に保たれた場所が最適です。

熟成庫のスタイルにも様々な種類があります。

ダンネージ式は、伝統的な方法で、樽を3段程度に積み上げます。

ラック式は、屋根に近い高さまで樽を積み上げることができ、パラタイズ式は、パレットに樽を縦向きにして積み上げます。

また、乾燥しすぎるとエンジェルズシェア(蒸散によるウイスキーの減少)が増えるため、湿度管理も重要です。

熟成中、樽からウイスキーに溶出する成分はウイスキーの香味を形成します。

代表的な成分には、色素、バニリン、タンニン、ラクトンなどのポリフェノール類があり、これらがウイスキーの風味や色合いを豊かにします。さらに、エステル化反応により複雑な香味成分が形成されます。

こうしてクラフトウイスキーが製造されていきます。
熟成は最低でも3年必要になります。

ウイスキーの製造は簡単なものではないかもしれませんが、取り組むだけの価値があります。

専門家と協力して、綿密なプランニングで開設するのが良いでしょう。




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