■目次
- ウイスキー蒸留所の初期投資とは?
- 実際の初期投資の内訳
- 投資金額の目安と変動要因
- 資金調達方法とそのポイント
- 施設と設備の投資
- 蒸留設備:ポットスチルやコラムスチルの費用
- 貯蔵施設:樽の種類とその費用、倉庫コスト
- その他の設備:水処理設備、電力設備、ボイラー等
- 土地・建物の費用と選定のポイント
- 土地選びの重要性:立地条件とアクセスの考慮点
- 建設費用とリノベーションのコスト比較
- 初期投資を抑えるための工夫
- 既存の施設を活用するメリットとデメリット
- 地方での開業支援や助成金の活用
- 共同での設備購入やレンタル設備の利用
- 開業までの流れと手続き
- 蒸留所の設計から稼働までのスケジュール
- 開業に必要な申請書類と法的手続き
- スムーズな開業に向けたポイント
【この記事を書いた人】
アウグスビール株式会社
取締役COO 村井 庸介
店舗併設型クラフトビール工場の立ち上げ支援を行う。 1985年生まれ。慶應義塾大学を卒業して野村総合研究所に入社。 独立後、老舗クラフトビールのアウグスビールの坂本社長と出会い、クラフトビール造りにほれ込み株主となる。
ジャパニーズウイスキーに注目が集まる中、ウイスキー蒸留所を設立したい方も多いのではないでしょうか。
そこで気になるのはウイスキー蒸留所の初期投資費用です。
この記事では、ウイスキー蒸留所を設立したい、クラフトウイスキー作りに興味があるという方向けに、ウイスキー蒸留所の初期投資の実際について解説していきます。
1. ウイスキー蒸留所の初期投資とは?
実際の初期投資の内訳
ウイスキー蒸留所の初期投資には、主に以下のような費用がかかります。
- 設備費用:
蒸留器(ポットスチルやコラムスチル)、糖化槽、発酵槽など、ウイスキー製造に必要な設備の費用です。これらの設備は一式で数千万円から1億円以上になることもあります。 - 土地・建物費用:
蒸留所の建設に必要な土地の取得費、建物の建設・リノベーション費用も大きな負担になります。特に広い土地が必要で、場所によって大きく異なりますが、郊外や地方に設置することでコストを抑えることができます。 - 原材料費:
大麦や酵母、水など、製造に使われる原材料の費用もかかります。また、製造過程で必要な消耗品やボトリング、ラベルなどの資材費も重要です。 - 貯蔵と熟成にかかる費用:
ウイスキーは熟成に数年以上かかるため、貯蔵設備や樽の費用も考慮する必要があります。特にウイスキー用の樽は数万円以上の高価なものが多く、長期的に保管するスペースも必要です。 - 法的費用と申請費用:
ウイスキーの製造には、酒税法などで定められた製造免許が必要で、これに伴う申請手数料や法的手続きに関する費用がかかります。
この後さらに詳しく解説しますが、合計するとすると1億円は下らず、2億円〜となることが一般的です。
大規模な蒸留所の場合、100億円近い初期投資を行う場合もあります。
投資金額の目安と変動要因
ウイスキー蒸留所の初期投資は、最低でも1億円以上が必要とされていますが、規模や設備の種類、立地などによって数億円になる場合もあります。
金額の変動要因は下記の通りです。
- 設備のグレード:
高品質なポットスチルや精密な発酵槽、環境に配慮した水処理設備などを導入する場合は費用が高額になります。 - 立地条件:
地方に設置することで土地代が抑えられ、また地域の支援を受けられる場合もあります。一方で都市部では観光客の集客が見込めるため、初期投資に加えた収益効果も見込めます。 - 設備の新旧:
新品の設備を選ぶ場合、導入費が高くなりますが、リースや中古品を活用することで費用を削減できます。
資金調達方法とそのポイント
ウイスキー蒸留所の開業において、初期投資を賄うための資金調達は重要な課題です。
代表的な資金調達方法とそのポイントは下記の通りです。
地方自治体の助成金・補助金:
地方創生を支援するための補助金や助成金を活用するのも一つの手です。観光資源としてウイスキー蒸留所を設置することで、地域からのサポートが得られるケースもあります。
自己資金:
リスクを抑えるために自己資金は可能な限り準備しておくことが重要です。自己資金が多いほど、金融機関からの融資を受けやすくなります。
金融機関からの融資:
地方銀行や信用金庫のビジネスローン、または日本政策金融公庫の起業支援融資など、資金を借り入れる選択肢があります。ウイスキー製造の特性を理解した金融機関を選ぶとよいでしょう。
クラウドファンディング:
クラウドファンディングは、事業を広く認知させると同時に資金を集める方法として人気があります。クラフトウイスキーの製造に関心を持つ支援者が多く、事前に顧客を確保できるメリットもあります。
2. 施設と設備の投資
蒸留設備:ポットスチルやコラムスチルの費用
ウイスキー蒸留所で最も重要な設備の一つが蒸留設備です。日本のクラフトウイスキー蒸留所では、香りと風味にこだわるために伝統的なポットスチルを使うことが多く、特に銅製のポットスチルが主流です。銅は硫黄化合物を取り除く役割があり、ウイスキー特有のまろやかな風味を生むのに適しています。
ポットスチルの価格はサイズや製造元によって異なり、1基あたり数百万円から数千万円に達することもあります。日本国内では高品質なポットスチルを製造している会社が少ないため、スコットランドなどから輸入するケースが多いですが、輸入にはさらに輸送費もかかります。
一方で、コラムスチル(連続式蒸留器)は、ウイスキー以外のスピリッツも製造する蒸留所に適しています。効率的に蒸留できるため大量生産向きですが、ウイスキーの多様な香りを追求するには不向きとされています。コラムスチルはポットスチルよりも高額で、大規模な蒸留所向けの設備といえます。
貯蔵施設:樽の種類とその費用、倉庫コスト
ウイスキーは貯蔵して熟成することで味わいが深まるため、適切な貯蔵設備が不可欠です。樽の種類もウイスキーの風味に大きな影響を与えます。クラフトウイスキーでは、アメリカンオーク樽やシェリー樽がよく使われますが、1つあたり数万円から数十万円のコストがかかることが一般的です。新樽やファーストフィル(初回使用樽)は特に風味が豊かで、品質が良い分、価格も高くなります。
貯蔵には、ウイスキー樽を保管するための倉庫も必要です。倉庫の建設や維持費用も無視できないコストで、湿度や温度が安定した環境を保つ設備が求められます。特に、ウイスキー熟成中には蒸散(いわゆる「エンジェルズシェア」)が発生するため、適切な貯蔵環境を整えることが重要です。倉庫内の湿度を一定に保つための空調設備も、長期的な投資として必要になります。
その他の設備:水処理設備、電力設備、ボイラー等
ウイスキー製造には大量の水が必要です。特に、糖化や発酵、冷却に使う水は重要な要素であり、地域の水質が良いことが望ましいです。そのため、必要に応じて水処理設備を導入し、水質を管理することが求められます。
また、電力設備も重要です。ウイスキーの製造プロセスには多くの電力が必要なため、安定した電力供給が必要です。特に地方に蒸留所を設置する場合は、インフラ整備が必要な場合もあるため、電力設備の導入費用も事前に見積もることが重要です。
ボイラーは、蒸留プロセスや他の工程で使用される熱源として欠かせない設備です。ボイラーの種類にはガスボイラーや電気ボイラーなどがあり、施設規模やエネルギー効率に合わせて選択します。ボイラーは燃料費もかかるため、運用コストも念頭に置きながら選定する必要があります。
3. 土地・建物の費用と選定のポイント
土地選びの重要性:立地条件とアクセスの考慮点
ウイスキー蒸留所の立地選びは、蒸留所の成功を左右する重要な要素です。まず、ウイスキーの品質に大きく影響を与える「水の確保」ができる場所かどうかが第一のポイントです。ウイスキー製造には大量の水が必要で、水質が風味に影響するため、自然環境や地下水の質が高い場所が望ましいとされています。
また、ウイスキー蒸留所は地元の観光や酒造体験の場としても注目を集めるため、アクセスの良さも考慮に入れても良いでしょう。
車や公共交通機関でのアクセスがしやすい場所は、観光客の増加を見込むうえで大きなアドバンテージとなります。一方、山間部や自然豊かな地域に位置する蒸留所は、静かで自然の影響を受けやすく、ウイスキーの熟成に良い環境を提供できる場合があります。
さらに、税制や助成金の対象になる地域も検討すべきです。特に地方自治体は地域活性化の一環として酒造施設の開業支援や助成金を提供することがあるため、開業コストを抑えるためにも、自治体の支援プログラムを活用できる地域での開業は有利に働く可能性があります。
建設費用とリノベーションのコスト比較
蒸留所の建設には多額の費用がかかります。新築で建設する場合、敷地の整備から建物の建設までが必要で、特に蒸留設備や貯蔵スペースに十分な高さや耐久性を持たせるために、一般的な商業施設よりも高額な費用がかかることが多いです。土地の条件や建物の規模によって費用は大きく変わり、最低でも数千万円規模の予算が必要になることがあります。
一方、コストを抑えるために既存の建物をリノベーションする方法もあります。例えば、廃校の体育館や古い倉庫、酒蔵などを改装して蒸留所に転用するケースは増えており、建物の購入費用と改装費用で抑えられる場合があります。リノベーションの利点は、建物の基盤があるため建設期間が短縮され、初期コストを抑えやすい点です。しかし、既存建物をウイスキー蒸留所用に改装する場合には、天井の高さや配管の整備、温度・湿度管理などの条件を満たすための設備追加が必要になることもあります。
また、ウイスキーの製造工程には様々な法的要件が伴うため、消防法や建築基準法に基づいた改装も必要です。これには専門的な知識が必要なため、建築士や設備設計士と協力しながら計画を進めることが求められます。総合的に見て、リノベーションが安価であっても、長期的なメンテナンス費用や改装の手間も考慮し、慎重に判断することが大切です。
4. 初期投資を抑えるための工夫
既存の施設を活用するメリットとデメリット
ウイスキー蒸留所の開業で初期投資を抑える方法として、既存の施設をリノベーションして活用する手段があります。特に、古い酒蔵や廃校の体育館、倉庫といった大規模な既存施設は、ウイスキー製造に必要な広いスペースを確保しやすく、建設費用を削減できるのが最大のメリットです。また、リノベーションにより開業までの期間が短縮されることが多く、スムーズに事業を開始できる利点もあります。
一方で、既存施設にはいくつかのデメリットもあります。まず、建物の高さや耐久性がウイスキー製造に適していない場合、必要な改装費がかかる可能性があります。
また、古い建物は配管や電力設備の更新が必要となり、そのコストも考慮しなければなりません。さらに、ウイスキー製造には消防法や建築基準法の規制を満たすことが求められるため、これらの法的要件を満たすための改装が必要になる場合もあります。既存施設を活用するかどうかは、初期コストを抑える利点と改装の手間やコストを総合的に検討したうえで判断することが重要です。
地方での開業支援や助成金の活用
地方でウイスキー蒸留所を開業する際には、自治体の支援や助成金制度を活用するのもおすすめです。
多くの自治体は、地域活性化のために開業を支援しており、助成金や補助金、低利の融資制度などを提供している場合があります。
また、開業後の観光資源として地元への貢献を期待されることが多く、地元の観光協会や経済団体と連携することで、宣伝面でもサポートを受けられる可能性があります。
助成金や支援制度の内容は地域によって異なるため、事前に各自治体や地方銀行に問い合わせて、どのような支援があるのかを確認することが重要です。特に過疎化が進んでいる地域では、設備の購入費用の一部を負担してもらえたり、土地の無償提供が行われるケースもあるため、積極的に情報収集を行うとよいでしょう。こうした地方支援を活用することで、初期投資を大幅に抑えることができます。
共同での設備購入やレンタル設備の利用
初期投資を抑えるために、他の事業者と共同で設備を購入したり、レンタル設備を活用する方法も有効です。
特に蒸留器や貯蔵タンク、ボイラーなどの大型設備は購入費用が高額になるため、クラフトウイスキー業界で共同購入を行い、使用頻度や規模に合わせて共有するのも一つの手段です。例えば、いくつかのクラフト蒸留所が協力して設備を購入し、使用スケジュールを調整しながら効率的に活用することで、個別の投資額を削減できます。
さらに、レンタル設備を利用するという手もあります。初期段階ではウイスキーの生産量が限られているため、全ての設備を購入するよりも、まずはレンタル設備で運営を開始し、ビジネスが成長するにつれて所有に切り替えることも考えられます。レンタル設備のメリットは、購入費用を抑えられる点だけでなく、メンテナンスや修理が容易で、設備の更新も柔軟に行えることです。
このように、共同購入やレンタルの活用は初期投資を抑えるだけでなく、ウイスキー業界の他事業者とのネットワーク構築にもつながり、情報共有や技術協力といった新たなメリットも期待できます。
5. 開業までの流れと手続き
蒸留所の設計から稼働までのスケジュール
ウイスキー蒸留所を開業するには、設計から稼働まで慎重に計画を立てることが必要です。
まず、ビジネスプランの策定と初期投資の準備が行われます。その後、土地の確保や建物の設計に入ります。
一般的に設計から建設完了までには1年ほどの期間がかかるとされています。建物の完成後、蒸留設備や貯蔵設備などの機材を設置し、試験稼働を行います。この間に必要なライセンスや認可を得ておくことが重要です。
次に、スタッフの雇用やトレーニングも欠かせません。
特に、ウイスキーの製造は熟練が求められるため、開業前に研修を実施することが望ましいです。また、初回の仕込みが始まるまでに原材料の確保や物流体制を整えることも忘れずに進めましょう。開業までのスケジュールを逆算して計画的に進めることが、円滑な開業のカギとなります。
開業に必要な申請書類と法的手続き
ウイスキー蒸留所を開業するには、いくつかの法的な手続きと申請が必要です。
まず、最も重要な酒類製造免許は、税務署に申請を行い、製造場所が法的基準を満たしているかの審査を受けます。この免許の取得には、施設が安全基準を満たしていることや、環境への配慮が行われていることが求められます。また、許可取得には半年程度の期間を見込んでおく必要があります。
その他、消防法や建築基準法に基づく設備や安全面のチェックも必要です。
また、衛生面の管理についても保健所への届け出が必要となる場合があります。これらの手続きはそれぞれ異なる窓口で行われるため、スケジュールを組む際には申請の順序と期限をしっかり把握しておくことが重要です。特に、開業直前に手続きの遅れが発生しないよう、早めに準備を進めましょう。
スムーズな開業に向けたポイント
スムーズな開業のためには、事前の準備と計画が肝心です。まず、許認可の取得に関しては、スケジュールを早めに組み、申請書類の準備を進めることが推奨されます。また、開業に向けて税務署や保健所と早期に相談することで、提出すべき書類や設備基準の確認ができ、スムーズな対応が可能になります。
さらに、事前に同業者や専門家に相談することも有効です。開業経験のある蒸留所のオーナーやコンサルタントからアドバイスを得ることで、トラブルの回避や申請手続きのスムーズな進行が期待できます。特に新規開業におけるリスク管理や費用の最適化について、専門家からの意見は大きな助けになります。
最後に、開業後の販売計画やマーケティング戦略についても事前に検討しておくとよいでしょう。ウイスキーの熟成には数年かかるため、開業後の収益確保や事業の持続性に向けた戦略も同時に考えることで、長期的な成功につなげることができます。
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