「『人間』らしくやりたいナ」
(サントリーHPより)
サントリーのトリスウイスキーの広告で知られるこの言葉は、作家でありコピーライターだった開高健によるものです。
サントリー在籍中には、柳原良平氏とともに洋酒のPR誌『洋酒天国』を手掛け、ウイスキーの普及に大きな役割を果たしました
この『洋酒天国』は、PR誌ながらトリスバーやサントリーバーへ通わなければ手に入らないことから「夜の岩波文庫」と称され、今でも根強い人気があります。
開高健は、広告業界から文壇へと進み、多彩な才能を発揮した人物でした。
どこか温かみがあり、背中を押してくれるような彼のコピーは、ウイスキーを愛し、人生の本質を追い求めた彼の哲学そのものを映しているように感じられます。
そしてその人生の背景には、いつもウイスキーが寄り添っていました。彼にとってウイスキーは、単なる嗜好品ではなく、「心の友」や「戦友」のような存在だったのかもしれません。
スコットランドで出会ったマッカラン
スコットランドを訪れた開高が出会ったのがマッカラン。
その時の様子を開高は
「すくなくとも、酒と女でちびた私の丸い鼻にはピタッときた。私は興奮したナ。」
と記しています。
当時は、マッカランのようなシングルモルトのウイスキーは一部のマニアのみにしか出回っていませんでした。
そのため、スコッチやコニャックは卒業したと思うほど飲んでいた開高にとって、シングルモルトのマッカランは、感動するほどの味わいだったようですね。
マッカランとの出会いの中で生まれたもう一つのエピソードが、とらやの羊羹『夜の梅』との組み合わせです。
羊羹とウイスキーなら何でも良いのではなく、『夜の梅』とマッカランでなくては「絶対あかんのや」らしく、知人たちにも勧めていたそうです。
開高健のウイスキー哲学
「跳びながら一歩ずつ歩く。
火でありながら灰を生まない。
時間を失うことで時間を見出す。
死して生き、花にして種子。
酔わせつつ醒めさせる。
傑作の資格。
この一瓶。」
1979年、彼自身が登場するサントリーオールドのポスターに掲載されたこのコピーには、ウイスキーを通じて感じた人生観が凝縮されているように感じられます。
もしかしたら開高は、ウイスキーを飲むことを単なる嗜好ではなく、人生を深く味わう行為と捉えていたのかもしれません。
そして、
「シンシンの夜はチクチク飲んで オレはオレに優しくしてやる」
このコピーは、忙しい日々に追われながらも、心の中ではどこか休息を求めている私たちにも、優しく響くメッセージではないでしょうか。
ウイスキーを飲む時間は、単にアルコールを摂取するだけではありません。
その琥珀色の液体を傾けながら、香りや味わいを感じ、自分自身と向き合う時間でもあります。
そのひとときは、慌ただしい日常の中に「静けさ」と「癒し」をもたらし、また新たな一歩を踏み出すための力をくれるのです。
もしまだウイスキーに馴染みがない方がいれば、ぜひお気に入りの一杯を探す旅を始めてみてください。
そしてすでにウイスキーを愛する方は、開高健が感じた「ピタッときた」瞬間を思い出しながら、新たな視点で楽しんでみてはいかがでしょうか。