ウイスキーを愛する方なら、一度は聞いたことがあるかもしれません。
「バレルエイジドコーヒー(Barrel Aged Coffee)」
ウイスキーの熟成に使われた樽で、コーヒー生豆を寝かせるという少し変わったコーヒーです。
「アイリッシュコーヒーのこと?」と思われる方もいるかもしれませんが、
これはウイスキーを入れたコーヒーではなく、ウイスキーの記憶を宿したコーヒー。
アルコール分は一切含まれず、ウイスキーが染み込んだ樽の香りだけを豆に移すという、まさに香りの芸術ともいえる製法です。
「悪魔の取り分」が生んだ、もうひとつの贈り物

ウイスキーづくりの現場では、熟成の過程で少しずつ樽の中の液体が蒸発していきます。
その失われた分を、職人たちはユーモアを込めて「悪魔の取り分(Angel’s share)」と呼びます。
一方で、ウイスキーを取り出したあとの樽には、香り成分がしっかりと染み込み、深く豊かな香りを残しています。
樽がもたらす、深くまろやかな香り
バレルエイジドコーヒーの魅力は、なんといっても香りの層の深さ。
ウイスキーの樽には、熟成中にオーク材の成分やお酒の香味が染み込み、
それがコーヒー豆にゆっくりと移ります。
たとえば、
- バーボン樽では、バニラやキャラメル、蜂蜜のようなまろやかな甘み
- シェリー樽では、レーズンやナツメグ、ドライフルーツのようなコク
- ミズナラ樽では、白檀や伽羅のようなオリエンタルな香木の香り
熟成を終えて焙煎された豆は、ウッディでスモーキー、時にバニラや果実のような香りをまとい、普通のコーヒーにはない奥行きを感じさせます。
もちろん、アルコール分は熱で完全に飛んでしまうので、香りを楽しむだけならお酒が苦手な方でも安心。
一口飲むごとに、ウイスキー樽が語る「時間の香り」が広がります。
「熟成」という、静かな時間を味わう
ウイスキーづくりにおいて、樽の中で過ごす時間は熟成と呼ばれます。
それはただ寝かせるのではなく、木と液体が呼吸をしながら互いに変化していく時間。
バレルエイジドコーヒーもまた、そんな静かな時間を経て生まれます。
生豆が樽の中で少しずつ香りを吸い込み、焙煎の熱で一気に花開くときは、
それはまるで、もう一度ウイスキーが目を覚ますような感覚です。
香りを楽しむなら、ぜひ豆を挽く瞬間から。
お湯を注いだ時に立ちのぼるアロマは、まさに樽の余韻。
ホットは深みを、アイスは香りの透明感を際立たせてくれます。
「夜の余白」を満たす新しい嗜み

このコーヒーが誕生したのは、2021年。
おうち時間が増え、夜の余暇をどう楽しむかを考える人が増えた時期でした。
「ウイスキーの香りを、アルコールを抜きにして味わえたら・・・」
そんな発想から生まれたのが、このバレルエイジドコーヒーです。
豆を挽く音、湯を注ぐ香り、カップから立ちのぼる蒸気。
その一つひとつの所作が、日常に静かな贅沢をもたらしてくれます。
夜のリラックスタイムや、読書のおともにもぴったり。
グラスを傾けるように、コーヒーの香りをゆっくり味わう時間は、きっと新しい癒しの習慣になるはずです。
香りのバトンをつなぐ、クラフトの精神
ウイスキーの熟成を支えた樽が、今度はコーヒーの香りを育てる。
そこには、クラフトの循環という物語ができているように感じます。
素材を尊び、時間を味方につけ、手間を惜しまないものづくりの姿勢。
それはウイスキー職人にも、コーヒーロースターにも共通する精神です。
「悪魔からのおすそ分け」を受け取ったこの一杯には、ウイスキーとコーヒー、二つのクラフト文化の記憶が息づいているようです。
忙しい日常の中で、少し立ち止まりたい夜に、バレルエイジドコーヒーを、ゆっくりと楽しんでみてくださいね。
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